Tears of Angels 第三章

―・・・エリス・・・伝説の英雄の名を・・・―

―みんなぼくは普通じゃないって言うんだ―
―どうして?どうしてみんなぼくをいじめるの?―
―母さんのせいだ・・・こんな名前をぼくに付けた・・・―

―泣かないでエリス その名がきっとあなたを守ってくれる―

「母さん!」
エイド1級寮の一室に、叫びが響き渡った。
ベッドの中、自分の声で目を覚ます。
枕が涙で濡れている。
何度も見た夢。
ここしばらく見ていなかったのに、よりによってこんな日に。
頭の中の嫌な余韻を拭い去るように腫れた目をこすり、
大きな溜息と供に布団から出ようとしたその時。
『エリス・キーパー、至急第五教室に来なさい。キーパー、 至急第五教室へ・・・』
部屋中に響いた呼び出しの音の大きさにに、戸棚のガラスも振動する。
時計を見ると、始業時間はとうの五分前に過ぎていた。
さっきのは何回目の呼び出しだろう。
憂鬱さに頭を占領されながら制服に着替え、
適当に身だしなみを整えて大急ぎで部屋を出た。
廊下は静まり返っている。次々と友達の部屋を通り過ぎては、
起こしてくれれば良かったのに・・・と
内心で愚痴を言いながら玄関を目指した。
翔台に乗り、本館へ急ぐ。
既に授業が始まっているとあって、他の翔床は見当たらない。
こんな日に遅刻するのはぼくぐらいだろう・・・と一層憂鬱さに拍車がかかった頃、
予想外の時間に動員された翔床は文句の一つも言わずに
エントランスホールに音も無く着地した。
無人の広間を駆け抜け、突き当りを右に曲がる。
緩やかに曲線を描く廊下の二つ目の十字路の手前が第五教室だ。
危うく行き過ぎそうになるほどのスピードを緩め、
ドアを突き破るようにして教室に入った。
入る直前に、十字路の向こう側に何人かの人影が見えたような気がしたが、
そんな事を思い出している時間は無い。
「遅いぞ。12分遅刻だ」
間髪入れずに教壇の上から教諭の声が飛んでくる。
厳しいが、どちらかと言うと人気のある30前後の男だ。
「すみません」
下手な言い訳が通用しないのは身に染みてわかっていた。
「まぁいい。だが次は無いと思えよ。とにかく座れ」
そして次があることも教室の誰もが知っていた。
教室中が微妙な笑顔で満たされた。
席に着こうと歩き出したエリスを複数の目が追う。
椅子に腰を落ち着けたと同時に後ろから小声で嫌味が聞こえてきた。
「ずいぶんごゆっくりじゃない英雄さん」
勝ち誇った笑みの中に少しの気に食わなさをたたえているのは、
後ろの席のライズだ。
エイド一級には数えるほどしかいない女子生で、
成績も良く、第五天使の有力候補の一人であると同時に、
取りまきを従え、何かというとエリスに突っかかってくる。
しかし、ライズがそれ以上何か言い出す前に教諭の救いが入った。
「静かにしろ〜。全員そろったところで今から進級試験を始めたいと思う。
君等が一番気になっているだろう内容だが・・・
大体は普通の定期テストと同じものだ。筆記と実技、面接」
隣近所の話し声によるざわめきが広がる。
「とは言っても全く同じというわけではない。
特別な審査官に試験中の君等を観てもらう。
どうぞ、入って」
教諭がドアの外に呼びかけると、外で人が動く気配がした。

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