数分後、ようやくセアが寮の正面ホールにやってきた。
部屋の鍵はアストが戻って来る前に自動で掛かるように設定しておいたので問題ない。
二つの三人乗り翔床に分かれて乗り、総司令官邸前まで飛ばす。
強健な造りの天上連合軍本部の中心にある、ひときわ荘厳な建物、
それが総司令官邸である。
一階入り口付近にセクル室があり、他の階には賓客室がいくつかある・・・らしい。
本部で唯一そのほとんどが謎に包まれた場所であり、
全貌を知る者は官邸の主人、
天上連合軍総司令アルヴェリース・E・フィンデルだけであるといわれている。
その何だか物騒な雰囲気の漂う場所の玄関前に到着してしまった天使四人は、
嫌な予感がするのを禁じえなかったものの、とりあえずセクル室に向かった。
自分たちはセクルに呼ばれたのであって、
用があるのはこの官邸の主ではないんだ・・・
と自分自身に言い聞かせながら。
この建物には珍しく簡素な扉の向こうに、
机に山積みにされた書類の向こう側に半ばその姿を隠されたコーリアがいた。
マネージが全員で払っているのでは無理もないが、忙しそうにしている。
「あぁやっと来たのね・・・
ごめんなさい今ちょっと手が離せなくて。少し待っててくれる?」
少しだけ四人の方に目を向け、すぐに視線を手元に戻して作業を続ける。
四人は接客用にしてはやたら高そうな、
ふかふかのソファーに腰をおろしてあたりを見回した。
何も無い部屋である。
自分たちが座っているソファーに、コーリアのデスク。
入ってきたドアから見て左側の壁に本棚が一つと、
奥にまた扉が一つ。
そうこうする内にコーリアが椅子から立ち上がった。
「見ての通り今馬鹿みたいに忙しくて・・・
呼び出しておいて悪いんだけど、先に行っててくれるかな?」
渦高く積み上がった仕事の山を溜息混じりに見やりながら言う。
「・・・先にって・・・どこにですか・・・?」
本当は聞きたくないが・・・といった面持ちでジェシルが訊ねた。
「あら?言ってなかった?」
コーリアの驚いた声に四人の嫌な予感は一層高まる。
「実際用があるのは私じゃなくてアルヴァ様なの。
連れて来てくれって言われたんだけど・・・先に行っててくれる?
ちゃんと連絡を入れておくから。すぐに後から追うわ」
そして予感は見事に的中したのだった。

→第五章